チャプレンメッセージ

2018年1月2018年01月01日掲載

1944年、フランス内陸部を偵察のため出発後、地中海上空で行方不明になった人物がいます。飛行機の操縦士であり、作家として、かの有名な「星の王子さま」の著者であるアントワーヌ・ド・サン・テグジュベリです。この方の著書の中に「人間の土地」と題するものがありますが、その中に「真の贅沢というものはただ一つしかない。それは人間関係という贅沢である」という言葉があります。
確かに、豊かな人間関係とは生活や心を豊かにしてくれます。しかし、同じ人間関係に疲れたり、傷ついたりすることも皆無ではありません。「人間関係で悩む」という言葉もありますが、ともすれば「人間関係の何たるかがわからない」様子も見受けられます。もちろん、物心両面にわたる豊かさはありがたいものですが、その豊かさが度を超え、分別を弁えなくさせられる時、それは豊かさと言うよりも大切な何かを失わせる恐ろしいものへと転じていきます。
人間関係ということで言いますなら、そもそも人間、気の合う人ばかりが世の中にいる訳ではありません。価値観の大きく異なる人もいます。何となくそりの合わない人もいます。そのような中、三千年ほど前に聖書をしたためた人たちは、こういう一文を残しました。「人が独りでいるのは良くない」と。この短い文言の真意とは、人が独りでいることの良し悪しのことと言うよりも、「人は独りきりで成り立ちますか?」「独りの力だけで生きていかれますか?」という問いかけであると言えます。そもそも、私たちはこの世に生を受けた瞬間から誰かとのつながりを持ち始め、その中で様々なことを経験したり体験したりしながら命を育み、成長していきます。もちろん良いことや気に入ることばかりではありませんが。
タイという仏教の国で作られた、世界中で何度も動画再生されました心打たれるコマーシャルがあります。タイは、国民の九割以上が仏教徒と言われる程の仏教国であり、施しの精神を大切にしています。そのタイで作られたコマーシャルですが、冒頭、貧しくも、温かみを感じさせられる食堂を営んでいる父娘が出てきます。
ある日、向かいの薬品店で鎮痛剤3パックと野菜スープを病気の母親のために万引きしてしまった少年が、その店主に捕まりました。食堂の店主は、少年が咎められているところへ仲裁に入り、少年の家庭事情を知り、幾何かのお金を代わりに払い、少年を救います。その後も貧しく食べ物を求めに来る人へ、店主は当然のように店の売り物である食べ物を恵み続けます。
そして、時は流れ30年が経ちますが、店主は仕事中に病に倒れます。貧しい父娘家族にしてみれば莫大とも言える入院治療費がかかり、なかなか意識の戻らない絶望的な状況の中、娘はついに店を売り出す決心をします。ある日、父の横で居眠りをしてしまった娘のもとへ医療費支払書が置いてあり、そこには「請求額は0、治療費は30年前に支払済み」と記されています。担当医は、30年前病気の母親のために盗みを働いてしまった少年でした。
この話は、ある実話に基づいているそうですが、最後に次のようなテロップが流れます。「Giving is the best communication」と。直訳をすれば、「与えることは、最高のコミュニケーション」となりますが、次のように言葉を重ねたいと思います。「与えること、ありがたくいただくこと、与え合うこと、それは命のつながりを表す最高の証」であると。英文翻訳としてはどうかとは思いますが、敢えてこのように訳したいと思いました。
誰もが、与え、注ぐことのできる素晴らしい何かを与えられているはずです。その何かを発見できるのもまた、Communicationの中にあるのではないでしょうか。

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