チャプレンメッセージMessage from the Chaplain

2019年11月01日掲載

夢と目的をもって学ぶ

4月からチャプレン(学校付き牧師)になりました杉山です。歴史と伝統のある香蘭女学校で生徒のみなさんと共に学ぶことができて幸せです。これまで長く学校で働き多くの生徒、保護者、教職員と豊かな時を過ごしてきました。どこでも生徒たちは学校生活に夢や希望を持って入学してきます。しかし、時に学ぶ目的や意味がわからなくなることもあるようです。一方、世界には貧しさゆえに、また女性であるが故に学ぶ機会を願いつつも叶えられない人が多くいることを忘れてはならないと思います。
もうだいぶ昔のことです、あるテレビ局のディレクターがアジアを中心とした番組を作るためインドの最大の都市コルカタに行った時の話を聞くことがありました。1200万人の人口の内100万人もの人が路上生活を送っていると言われるコルカタの様子を撮影することはインド政府にとっては好ましいことでなく撮影開始直後にこのディレクターは警察に逮捕され撮影禁止を通告されます。失意の中で彼は1人の少年と出会うのです。シナという名前の12歳の少年で、600キロほどはなれた農村からコルカタに1人で働きに出てきた少年です。朝6時から夜9時まで路上の茶店で少年は働いています。給料は一カ月150ルピー、当時日本のお金で数百円程度、それも全部故郷の家族に仕送りをいているのです。生き生きと輝く表情の少年でした。シナは学校に行っていませんから当然読み書きができません。ある日彼が何かを見つめていました。現地語の新聞です。ディレクターが「読めるの」と聞くと「ううん、読めないけど、読みたいんだ」そう答えたようです。数日後、シナが必死の表情をしています。シナの働く茶店の40がらみの主人がシナに字を教えているのです。シナは習ったばかりの字を道路に石で書いていました。そしてその字をうれしそうにディレクターに教えてくれたそうです。ディレクターもうれしくて一緒に字を書きました。
シナの夢は自動車の運転手になること。「自分の自動車を手に入れて故郷に帰り、母さんを乗せてやるんだ。免許を取るためには字が読めないとだめなんだ」と少年は希望に満ちて話したそうです。その後、このディレクターは日本に帰り、政治の腐敗を扱った番組を作りました。お金に絡む不正なことをしていく政治家、それを支える大企業の人たち、みな立派な大学教育を受けた人ばかりです。こんな人たちを見ながらディレクターはいつも学ぶ喜びに満ちあふれたシナ少年のことを思い起こすのだという話でした。運転手になって自分の車を手に入れ、お母さんを乗せてあげたい。なんと小さく、そして立派な夢でしょう。その夢のために必死で道路に字を書いて覚えようとする学習意欲、勉強の姿勢に心打たれる思いです。
7年前、パキスタンで当時14歳の女子生徒、マララ・ユスフザイさんが女子が教育を受けることを禁止するタリバンという武装勢力に銃撃されたことを知っている人もいると思います。幸い彼女は命を取り留め、その後も命の危険を承知の上で女性が教育を受けられるようになるための運動を続け、2014年にノーベル平和賞を受賞しました。彼女は国連で演説した時、次のような言葉で演説を締めくくりました。「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。」教育を受けられるということはなんと素晴らしいことかと思います。香蘭の生徒が夢と目的をもって学ぶことができるように私たちも夢と目的をもって学んでいきます。

香蘭女学校チャプレン  杉山 修一