チャプレンメッセージMessage from the Chaplain

2022年06月01日掲載

「平和の祈り」   


 人類の歴史は戦争の歴史でした。なぜ戦争が起こるのか、資源の独占、独立、国際的圧力への抵抗、宗教闘争、内乱、侵略等きっかけも理由も目的もそれぞれですが、人間は常に戦争、紛争を繰り返しながら歴史を作ってきました。いったいどれだけの人間が戦争で死に、どれだけの人が愛する人を失って悲しんできたのでしょう。

 中世ヨーロッパ、平和を求めた聖人としてアッシジのフランチェスコという人がいました。12世紀、イタリア中部ウンブリア地方のアッシジで裕福な毛織物商の子どもとして生まれ、青年時代は、享楽的な生活を送っていました。この時期のヨーロッパは急速な都市化と新しい時代の制度が模索されている時期で、戦乱が絶えませんでした。イタリアの諸都市でも、神聖ローマ皇帝とローマ教皇の勢力が対立すると共に、都市内の領主や貴族・騎士と平民が対立し、都市間の争いが頻発していました。若きフランチェスコもこの内乱、そしてペルージャとの戦いに参加します。敗北を経験し捕虜となり後に釈放されアッシジ帰ります。しかしフランチェスコはまた別の戦争に出征する騎士に同行しています。戦功を立てて騎士に取り立てられたかったのです。青年期にありがちな血気盛んな若者だったのです。

 しかし、この戦に行く途中で彼は突然神の声を聞いて回心したと言われます。大病を経て回復した彼は以前のように友人たちとの放埓な生活に空しさを覚えるようになり、洞窟などに籠って祈りや瞑想を行うようになります。そしてそれまで、近づくことを恐れていたハンセン氏病患者に近づき支援するようになります。恐れが喜びに変わり、以後フランチェスコは病人への奉仕を行うようになります。後に教皇に修道士としての活動を許可され、平和な生活を説いていきました。フランチェスコは人々からの崇敬を集めるようになり、鳥に向かって説教をした話などの逸話も残っています。フランチェスコは、うさぎ、魚、水鳥、蝉、コウロギを相手に話をしたとも伝えられています。人間だけでなく、神の創られたすべての生き物と共存していくことが大切だと考えたのです。フランチェスコはイスラム世界へも働きかけを行い第5次十字軍が駐留するエジプトでは十字軍に対して戦闘の中止を呼びかけ、スルタンのメレク・アル=カーミルと会見して平和交渉を行います。

 このフランチェスコが祈ったという「フランシスコの平和の祈り」と呼ばれる祈りがあります。実際はフランチェスコの作ではありませんが、彼の博愛と平和の精神をよく表現しているので、多くの人々にこの名前で親しまれています。私たちは現実的な平和実現の方法を模索すると同時に、私たちが平和の器、平和の道具として用いられるためにフランチェスコの「平和の祈り」を祈りつつ平和を求め続けたいと思います。


    フランシスコの平和の祈り


  主よ、わたしを平和の器とならせてください。

  憎しみがあるところに愛を、

  争いがあるところに赦しを、

  分裂があるところに一致を、

  疑いのあるところに信仰を、

  誤りがあるところに真理を、

  絶望があるところに希望を、

  闇あるところに光を、

  悲しみあるところに喜びを。


  ああ、主よ、慰められるよりも慰める者としてください。

  理解されるよりも理解する者に、

  愛されるよりも愛する者に。

  それは、わたしたちが、自ら与えることによって受け、

  許すことによって赦され、

  自分のからだをささげて死ぬことによって

  とこしえの命を得ることができるからです。


香蘭女学校チャプレン  杉山 修一