チャプレンメッセージMessage from the Chaplain

2024年1月1日掲載

「ドラえもんとのび太の別れ」

中高生の時期は自立への歩みを始める大切な時期ではないかと私は考えています。経済的自立、社会的自立まではもうしばらく時が必要でしょうが、一人の人間として自分が何者でどこへ行こうとしているのか、生きていくうえで大切な価値観を確立することを模索し始める大事な時を迎えているということです。もちろん中高生は親を始め多くの人々の支えがなくては生きていけないことは明らかです。それにもかかわらず、自分の頭で考え、自分らしく、自分を生きるというということは最も感受性が豊かで精神的にも研ぎ澄まされている中高生の時期に獲得されるのではないかと思うのです。

「ドラえもん」という漫画のキャラクターを知らない人はあまりいないと思います。この漫画が誕生したのが1969年ですから、今から55年も前に始まった漫画です。耳のないどら焼きの大好きなネコ型ロボットの「ドラえもん」は2112年の未来から現代にやってきて、何をやってもだめな「のび太」を助けながら、「のび太」を少しずつ成長させていくという話です。テストを受けても5回に1回は0点を取り、自転車にも乗れない、いじめられっ子の「のび太」はいつも「ドラえもん」に甘えて、いろいろな道具を出してもらい「ドラえもん」なしでは生きられないのです。あるとき、「ドラえもん」はこのままでは「のび太」が依存的になりすぎて1人で生きることができなることを心配して、未来に帰ることを決意します。そこで「ドラえもん」は一計を案じるのです。それは「のび太」がくれたどら焼きを食べて「ドラえもん」はおなかが痛くてつらい、ぼくは壊れてしまう、と言うことにするのです。心配する「のび太」に「ドラえもん」は『未来に帰れば直る、でも僕がいなくなったら困るだろう』と言うのです。

「のび太」はもちろん、『君なしで生きてなんかいけるわけないじゃないか、でも未来に帰ればおなかの痛いのが直るのならボク我慢するよ』といって泣きながら別れるという話です。1971年作の「ドラえもんとのび太の別れ」という物語です。この「のび太」が自立できるために未来に帰っていく「ドラえもん」の話は私にイエスさまと弟子たちとの別れを思い起こさせます。ヨハネによる福音書16章には弟子を残して去っていくイエスさまの姿が描かれています。イエスさまは自分が去っていかなければ弟子たちが自立できないことを知っていました。悲しみの中でうろたえる弟子たちを前に、イエスさまは心配で仕方なかったと思うのですが、きっぱりと別れを告げるのです。『私が去っていくのは、あなたがたのためになる』、そう告げて弟子たちの独り立ち、自立を促しているのです。

中高生の時期はいろいろな面で自立していく大事なときです。自立するということは文字通り、自分の足でしっかりと立つことですが、精神的には自分のことに責任を持って生きるようになるということです。「のび太」が「ドラえもん」と決別することで自立しなければならなかったように中高生の皆さんには一日も早く自立していただきたいと思います。そして保護者の方々にはぜひ「ドラえもん」になっていただきたいと思うのです。

香蘭女学校チャプレン  杉山 修一